SESは「System Engineering Services」の略称で、主にクライアント企業に常駐し、システムの運用・保守のほか、データセキュリティの保持など幅広い業務を担当します。
SES企業のなかには、ブラックリスト企業ともいえる、労働環境が良くない会社もあり、転職を検討している人で、そのような企業を避けたい方も多いでしょう。
本記事ではブラックリスト企業から身を守り、優良なSES企業を見極める方法を解説します。
SESのホワイトリスト優良企業の見分け方
インターネット上では「SESはブラック」という意見が聞かれることもありますが、実際には多くの優良企業も存在します。まずはそのようなホワイトリスト企業の見分け方を見てみましょう。
福利厚生が充実している
特別休暇や住宅手当など、福利厚生が充実している企業はホワイト企業である場合が多いです。
職場環境だけでなく、資格取得を支援してくれるなど、社員のスキルアップを後押しする体制が整った企業は、社員を大事にしてくれる可能性が高くなります。
福利厚生に関する情報は、多くの場合ホームページや採用ページで公開されているので、転職先を検討する際に確認しましょう。
教育制度が充実している
社員の教育制度が確立されているSES企業は、優良企業である可能性が高いです。SESは未経験の人材を募集している会社も多いため、ホワイト企業は適切な教育体制を整えています。
「数カ月単位の研修期間が設定されているか」「社内勉強会のような場が多く設けられているか」といった点を入社前に確認してください。
そのほか資格取得や、セミナー参加などを費用面でも支援してくれる企業は、社員もスキルやノウハウを獲得しやすいでしょう。
業績が安定している
業績の安定性も、企業の体質を見極める重要な要素です。具体的には自己資本比率(返済不要の自己資本が全体の資本調達に締める割合。『純資産÷総資本(負債+純資産)×100』で計算される)が20~50%の企業が、経営が安定しているといわれています。
安定的な利益確保ができていれば、倒産のリスクが少なく、社員も安心して働けるほか、社員のスキルアップなどにも力を入れることが可能となります。
有休の消化率が高い
有給休暇の消化率の高さも、ホワイト企業を見極める大切な指標といえます。
有給休暇は雇い入れの日から6か月経過し、その期間の全労働日の8割以上出勤していれば法的に付与されるものです。SESの場合、常駐先と自社の双方に事前に伝える必要があるものの、本来は取得する際に会社側の許可や調整などは必要ありません。
しかし企業のなかには社員に有給休暇を消化させず、コンプライアンス違反を行っているブラック企業が存在します。有給消化率をホームページで公開している企業もあるため、事前にチェックしておくとよいでしょう。
評価制度が明確になっている
SES企業において、評価制度が明確である点は、優良企業を見抜く大切なポイントです。
客先常駐するSESは、働きぶりの評価が正しく行われにくい傾向があります。その際、就業期間によるキャリアパスが確立されていたり、スキルごとの評価基準が明確だったりする企業は、社員のモチベーション向上や働きやすさの改善に力を入れていることがうかがえます。
頻繁に面談を実施しているか、業務へのフィードバックを受けられるかといった点も、考慮するとよいでしょう。
幅広い年代のエンジニアが活躍している
優良なSES企業では、20代から40代以上の幅広い年齢層のエンジニアが働いている場合が多いです。
30代以上の、経験とスキルを持ちあわせたエンジニアが活躍しているということは、それだけ労働環境やキャリアアップを支える体制が整っていることを意味します。
言い換えれば、20代など若い社員の割合ばかりが大きい企業は、何らかの原因により人材流出が起きている可能性が考えられます。
平均勤続年数が長い
従業員の年代が幅広いだけでなく、勤続年数が長いこともホワイト企業の特徴といえます。
労働環境が整備され、働きやすい体制が整っていれば、必然的に社員の離職率は下がります。20代から経験を積み、30代、40代とキャリアアップしていける企業はそれだけ平均勤続年数も長くなるでしょう。
企業のホームページや有価証券報告書などを参照すれば、社員の平均勤続年数が確認できます。10年ほどの平均勤続年数を保っている企業は、優良企業の可能性が高いといえるでしょう。
下流案件がほぼない
優良なSES企業は上流工程の案件に携わる場合が多く、下流案件が少ないことが特徴として挙げられます。下流案件では現場での労働力が求められるため、プログラミングスキルの向上などは見込めるものの、報酬は低い傾向が見られます。
一方上流案件は高単価で、かつ設計に関するスキルアップも図れます。SESへの転職を考えている方は、転職希望先が受注している案件の工程についても事前に把握しておきましょう。
SESのホワイトリスト企業の探し方
SESの企業が優良か、そうでないかを見極めるためには、押さえておくべきいくつかのポイントがあります。
ここではホワイトリスト企業の探し方を解説するので、転職を希望している方は参考にしてください。
IT業界に強い転職エージェントに登録する
転職エージェントは転職希望者の希望条件などをヒアリングし、求人を紹介してくれるサービスです。転職する際にエージェントを活用する方も多いですが、優良なSES企業を見つけるにはIT業界に強い転職エージェントに登録することをおすすめします。
IT専門の転職エージェントなら、保有している求人数も多く、企業の体質に関する情報も得ている場合が多いです。
転職エージェントの非公開求人を狙う
転職エージェントが保有している求人には、一般に公開されている「公開求人」のほかに「非公開求人」が数多くあります。非公開求人のなかには優良企業のものも多数存在し、そのような企業を狙うのもホワイト企業に転職する有力な方法といえます。
IT業界に強い転職エージェントに登録し、希望する条件について相談すれば、それに合致する非公開求人を紹介してもらえるかもしれません。
紹介された求人を口コミサイトで調べる
転職エージェントから紹介された企業が、ホワイト企業の条件に当てはまっていたとしても、就業実態については確認しきれないケースも多いでしょう。
そのような際に活用すべきなのが、転職に関する「口コミサイト」です。口コミサイトには実際に企業で働いている人や、以前企業に勤めていた人の「リアル」な情報が投稿されています。
有休のとりやすさや職場環境、人間関係など、企業の実態を確かめるために口コミサイトをチェックしてみましょう。面接の様子など、応募や採用に関する情報も確認できます。
代表のSNSやブログをチェックする
SES企業の社長や代表者が、XなどのSNSやブログを公開しているケースも少なくありません。その内容を確認することも、企業の体質を見抜くヒントとなり得ます。
代表の意見や考え方が自分に「合わない」と感じられたり、SES事業がメインでありながら自社開発企業であることをアピールしていたりする場合、入社したとしても気持ち良く働けない可能性があります。
また、代表の経歴や出身を確認することもおすすめです。一概には言えないものの、代表がエンジニア出身の会社は、エンジニア業務に関する理解が深い可能性が高いです。
代表のSNSやブログの内容に違和感を感じたときは、選考の際も注意を払うほか、転職エージェントに率直な思いを相談してみてもよいでしょう。
公式サイトの内容や詳細を確認する
企業がホワイトかどうかを確かめる手段として、公式サイトのチェックは欠かせません。採用情報のページに福利厚生や給与などの情報が明記されているか、企業理念や代表のメッセージに違和感を感じる点はないかなど、詳しく確認するようにしましょう。
また企業ブログなどで、会社の写真や社内活動の内容を公開していることもあります。ブラック企業は経営実態や都合の悪い項目を隠そうとする傾向にあるため、自分が望む条件がオープンされているかなど、確認しておきましょう。
売上高・平均年収を確認する
業績や経営状態は企業の体質に直結するので、転職先候補の企業の売上高については確認しておく必要があります。
売上高のチェックと同時に、現社員の平均年収の情報も照らし合わせてみましょう。売上が好調で、平均的な基準を上回っている場合でも、平均年収が低ければ社員への待遇が良くない可能性があります。
SESの大手優良ホワイトリスト企業一覧
ここからは福利厚生や経営状況がよい、SESの大手優良企業を紹介します。
通信・ネットワーク業界のホワイト企業ランキングでもトップレベルの有名企業を取り上げるので、転職希望先の候補とするほか、他社の体質を見抜く際の参考にしてください。
富士ソフト株式会社
富士ソフト株式会社は1970年創業の大手SIerで、SES案件にも携わっています。
年間休日は120日以上、完全週休二日制など手厚い労働条件が見られるほか、平均年収620万円、平均勤続年数が9年10ヶ月など、優良企業の条件を満たす内容が、会社概要や有価証券報告書に読み取れます。
株式会社DTS
独立系SIerである株式会社DTSは、官公庁や金融業など幅広い分野の事業を手がける大手企業です。
有給消化率70%、残業時間25時間未満など、優良企業の条件を満たしているほか、社内に「健康推進室」を設置し、社員の健康維持にも取り組んでいます。
株式会社NSD
株式会社NSDは、ソフトウェア開発やシステムの企画・設計、ITインフラ構築など幅広い事業を展開する独立系SIerです。
同社は「健康優良企業」に認定されるなど、従業員の働きやすい環境確保に努めており、売上や平均年収に加え、有給消化率や残業時間についても高水準を記録しています。
株式会社システナ
株式会社システナは、携帯電話のシステム開発を行う株式会社システムプロと、金融機関のシステム開発などを行うカテナ株式会社の合併により設立された東証プライム市場上場企業です。
残業時間の削減など従業員のはたらきやすさ向上に取り組むほか、エンジニアの資格取得やスキルアップの支援体制も整えています。
クラスメソッド株式会社
クラスメソッド株式会社はAWS(Amazon Web Services=Amazonが提供するクラウドサービス)の技術支援など、コンサルティングやシステム開発などのソリューション提供を行う企業です。
同社が掲げる強みは「スペシャリストになれる成長機会」「納得感のある働き方」「安定かつ自由な環境」。高水準な平均年収や高い有給取得率など、ホワイト企業の条件を満たしています。
株式会社フォーカスシステムズ
株式会社フォーカスシステムズは、公共システムの開発や通信制御装置のファームウェア開発などを行う独立系SIerです。
「健康経営優良法人2023大規模法人部門」や「プラチナくるみん」「えるぼし」(ダイバーシティ推進企業に与えられる認定)を獲得するなど、従業員がはたらきやすい環境整備に力を入れています。
鈴与シンワート株式会社
鈴与シンワート株式会社は物流領域のDX・IT化を得意とし、商流、建設・ビルメンテナンスなど幅広い領域で事業を展開する独立系SIerです。
「共生(ともいき)」の精神を掲げる同社は、「健康経営優良法人2023大規模法人部門(ホワイト500)」にも認定されるなど、従業員の健康増進に取り組むホワイト企業といえます。
株式会社ソルクシーズ
株式会社ソルクシーズはアプリケーションソフトウェア開発を主要事業とする、東証プライム市場上場の独立系SIerです。
給与、ボーナスは一般的なエンジニアより高水準を保っており、残業時間も少なく、勤続年数も長いことなどから優良企業であることがうかがえます。
コムチュア株式会社
コムチュア株式会社はクラウドパッケージやERPの導入などを得意分野とする東証一部上場企業です。
フレックス制度やドレスコードフリーの制度を導入するなど、働き方の改善を従業員と共に推進しています。収入の水準も高く、ホワイト企業といえるでしょう。
イーソル株式会社
イーソル株式会社は、リアルタイムOSの開発などに強みを持つ独立系SIerです。
フレックスタイム制や在宅勤務など、ライフスタイルに合わせて働ける柔軟な就業体制を確立しており、残業時間、有給消化率も高水準を保っています。
ブラックリスト企業で働かされるSESエンジニアの特徴
一口にSES企業やIT企業といっても、その体質は会社によってさまざまです。エンジニアは技術力ばかりが重視されると思われがちですが、ほかにも意識すべき事柄があります。
ここではブラックリスト企業で働かされるSESエンジニアの特徴について解説します。
勤務態度や社会人マナーが悪い
勤務態度や周囲に対するふるまい、仕事におけるマナーが悪いエンジニアはブラックリスト企業に派遣される可能性が高いです。
マナーを守れないエンジニアが、周囲のメンバーのモチベーションを低下させるケースも少なくありません。そのような人材は労働環境の悪い企業に派遣され、自主退社を促される場合もあります。
コミュニケーションがとりにくい
周囲のメンバーとコミュニケーションを円滑に行えないエンジニアも、労働環境の悪い現場へアサインされやすい傾向があります。
エンジニアの業務は、一人だけで進めるものとイメージされがちですが、実際はチームで仕事を進める場合が多く、周囲との協働が欠かせません。プログラミングだけでなく、設計書の作成など、他者へ情報を「伝える」業務も仕事内容に含まれます。
コミュニケーション力が不足し、情報共有などに不備があるとプロジェクト全体の進行に支障をきたす恐れがあります。
高度なコミュニケーション能力などは求められませんが、ホワイトリスト企業で働きたいのであれば、周囲を思いやり、協働していく姿勢は必要でしょう。
スキルが不足している
スキルが足りないと判断されたエンジニアは、ブラックリスト企業で働かされる可能性が高いです。
高度なスキルを身に付けているエンジニアは、その分ハイレベルな案件に携われる可能性が高くなります。そういった企業と契約できれば、労働環境もよく、給料も高水準であることが多いです。
しかしエンジニアのスキルが低いと、携われる案件も下請けのような業務しか選択肢がなく、労働環境や収入も低水準となりがちです。
SESのホワイトリスト企業に関するよくある質問
SES企業から内定を得るために転職活動を進めている方に向け、ここではホワイトなSES企業へ就職するためのよくある質問に回答します。
SESはやめとけといわれる理由は?
日本のエンジニアのうち7割がSESエンジニアといわれていますが、ネットやSNSでは「SESはブラックだからやめとけ」といった評判も目にすることがあります。
SESは他社のサービスや製品に関わる業務を受託するため、常駐先により労働環境が異なる場合があります。
また、ひとつの業務に特化するわけではないため、段階的なスキル向上が図りにくいという意見もあります。そのような背景が「やめとけ」といった評判につながっていると想定されます。
しかし実績を積み、自己研鑽を惜しまずスキルを積めば、昇給など好待遇な労働条件が得られる場合もあるため、「やめとけ」というのは極端な意見と捉える必要があるでしょう。
未経験からホワイト企業のSES転職は可能?
エンジニアとしての業務経験がない人でも、SES企業に転職することは可能ではあります。しかしなかには労働環境がブラックで、社員が定着していないために未経験者可の求人を出している企業もあります。
ホワイト企業で働きたいのであれば、仮に現場経験が未経験であっても、プログラミングを勉強するなど、一定のスキルを身に付けておいた方が良いでしょう。豊富な知識を備えた転職エージェントに相談するのもおすすめです。
転職エージェントの豊富な知識を活用しよう
本記事ではSESのホワイトリスト企業の特徴や見つけ方、ブラックリスト企業から身を守る対策などについて解説しました。SES企業にもさまざまな会社があり、労働条件もそれぞれ異なります。
一部「やめとけ」と言われてしまうような悪い労働環境の現場がある一方、福利厚生が充実していて、残業が少なく給与も高水準といった、ホワイトリスト企業も数多く存在します。
ホワイトなSES企業に転職するためには、上記のような好条件を備えた企業を探すほか、IT分野に強い転職エージェントに相談することも有効です。
転職エージェントの豊富な知識を活用しながら、自身が納得できるSES企業を見つけてください。