ITエンジニアとして保守運用業務に携わっている人の中には「エンジニアとしてのスキルが全然身につかない」と悩んでいる人もいるのではないでしょうか。

単純作業が中心の保守運用業務、周りはどんどん開発などをしているのに自分だけ置いていかれている気がすると、焦りを感じる人も少なくありません。

この記事では、保守運用業務とスキル習得について解説します。不安を抱えている保守運用エンジニアはぜひご覧ください。

本当に保守運用はスキルが身につかないのか

保守運用はスキルが身につかないと言われがちですが、そんなことはありません。開発スキルを磨く機会は少ないかもしれませんが、ITエンジニアとしての基礎を身につけるには保守運用業務は適しています。

保守運用業務を通じて、OS、ミドルウェア、データベースなど、さまざまな技術に触れられるため、初心者でもITに関する総合的な知識を深めることができます。また、保守運用業務は基本的にルーチンワークとトラブルシューティングです。そのため、問題解決に必要なヒアリング能力や論理的課題解決能力も身につきます。

保守運用業務で身につくスキル

保守運用業務で身につく仕事には以下のようなものがあります。

保守運用業務で身につくスキル
  • システムやITインフラに関する知識
  • 問題解決能力
  • コミュニケーション能力

システムやITインフラに関する知識

保守運用の仕事では、トラブルが発生した際に原因を突き止め、復旧させる必要があります。

最初は監視業務が主で、すぐに携われる業務内容ではないかもしれません。継続して保守運用業務に従事することで、システム保守運用であればシステムの、インフラ保守運用であれば携わっているインフラについての知識が身につきます。

問題解決能力

保守運用業務では、ITエンジニアとして必要不可欠な「問題解決型論の理的思考能力」が鍛えられます。

突発的なトラブルが発生した際には、システム全体を俯瞰して捉え、迅速かつ正確に原因を究明しなければなりません。これを繰り返すことによって、論理的に問題を解決する力を養うことができるのです。

問題解決能力はITエンジニアであればどの職種でも必要なものとなるため、保守運用業務に携わることでITエンジニアとしての基礎が身につきます。

コミュニケーション能力

保守運用業務に従事することで、コミュニケーション能力が身につきます。

保守運用業務はパソコンに向かってルーチンワークばかりをするイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。確かにルーチンワークが多いことは否めませんが、トラブルが発生すれば上流工程のエンジニアへ状況を的確に報告する必要がありますし、ときにはクライアントへヒアリングをして問題の原因を突き止めることもあります。

そのため、保守運用業務を通じて、問題解決に必要なコミュニケーションの取り方を学ぶことができるのです。

保守運用業務はスキルが身につかないと言われる理由

保守運用業務はなぜ「スキルが身につかない」と言われるのでしょうか。その理由を解説します。

  • システムやインフラ構築に携われない
  • 暇な時間が長い
  • 単純作業の繰り返しで成長を感じにくい

システムやインフラ構築に携われない

開発のように新しいシステムを創り出す仕事と比較して、保守運用業務は既存のシステムを維持する仕事であり、専門性がないように思われがちです。

新しい技術に触れる機会が少ないため、将来性がないと感じてしまう人もいます。とくに、自分の手でシステムやインフラを構築したくてIT業界に飛び込んだ人にとっては、保守運用の業務ばかりだと将来に不安を抱いてしまうかもしれません。

暇な時間が長い

保守運用業務は、基本的には監視業務が主となります。トラブルがないときは基本的にすることが少ないため、時間を持て余してしまうかもしれません。

もちろんトラブルがないのがベストですが、暇な時間が長いと「スキルが身につかないのでは」と不安になるのも無理はありません。

単純作業の繰り返しで成長を感じにくい

保守運用業務は同じ作業の繰り返しが多く、新しいことにチャレンジする機会が少ないと感じる人がいます。

マニュアルに沿った作業が中心で、創造性や問題解決能力を活かせないと感じることも。

日々の業務の中でスキルは身についているはずなのですが、単純作業の繰り返しだと、成長している実感を得難いため、自分自身のスキルについて不安になってしまいます

またシステムが安定稼働している状態は、むしろ保守運用の存在は目立たないため、自分の仕事が評価されていないのでは、と不安になることもあるでしょう。

保守運用業務の将来性

AIの発展により、保守運用業務のルーチンワーク部分はAIに取って代わられる可能性があります。そのため巷では「保守運用業務に将来性はない」という意見も。

しかしいくらAIが発展して自動化が進んだとしても、保守運用業務において人間の力が必要な部分は存在します。そのため、保守運用エンジニアには、業務の幅を広げていけるようにスキルアップすることが求められるでしょう。

保守運用エンジニアがスキルアップするのにオススメの資格

ここでは、保守運用エンジニアがスキルアップするのにオススメの資格を紹介します。前半は国家資格、後半はベンダー資格です。

  • 基本・応用情報技術者試験【国家資格】
  • ネットワークスペシャリスト試験【国家資格】
  • データベーススペシャリスト試験【国家資格】
  • Linux技術者認定 LinuC(リナック)【ベンダー資格】
  • シスコ技術者認定試験(CCNA)【ベンダー資格】
  • ORACLEMASTER(オラクルマスター)【ベンダー資格】
  • AWS 認定ソリューションアーキテクト 【ベンダー資格】

基本・応用情報技術者試験【国家資格】

基本情報技術者試験および応用情報技術者試験は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施している国家試験です。

ITに関する幅広い知識が問われ、基本情報技術者試験ではIT技術者として基本的な、応報情報技術者試験ではもう一歩進んだ知識が必要となります。

レベルに応じてITに関する知識を体系的に身につけることができるため、将来的にどのようなキャリアを重ねるとしても価値のある資格です。

ネットワークスペシャリスト試験【国家資格】

ネットワークスペシャリスト試験は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施している国家資格です。

基本情報技術者試験や応用情報技術者試験がIT専門職として幅広い知識を問うのに対して、ネットワークスペシャリスト試験は、ネットワークの管理・設計開発を担うエンジニアを対象としています。ネットワークエンジニアとしてキャリアを積みたい人にとっては、スキルアップと能力の証明になるため、ぜひチャレンジしてもらいたい資格です。

データベーススペシャリスト試験【国家資格】

ネットワークスペシャリスト試験も、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施しており、データベースに関する深い知識と実践的なスキルを有していることを証明する国家資格です。

データベースエンジニアとしてキャリアを進めたい人にオススメの資格です。

LinuC【ベンダー資格】

LinaC(正式名称「Linux技術者認定 LinuC」)は、LPI-Japanが実施するLinaxについての認定試験です。

LinaxとはWindowsやMacなどと同じOSの一種で、サーバ管理やアプリケーション開発といった様々な業務で使用されています。

LPICは世界で標準化された試験であるのに対して、LinaCは日本市場のニーズに合わせた試験内容となっています。

シスコ技術者認定試験(CCNA)【ベンダー資格】

シスコ技術者認定試験は、シスコシステムズ社が実施する、ネットワークシステム機器やシスコ製品の取り扱いに関する認定試験です。複数の試験区分があり、CCNAはひと通りのネットワークの知識とシスコ社製品の知識を証明するもので、シスコ技術者認定試験のなかでは初級の位置づけとなっています。

難易度の感じ方は人によって違うものの、転職やキャリアパスを考えたときに、有利になることは間違いありません。

ORACLEMASTER(オラクルマスター)【ベンダー資格】

ORACLEMASTERは、データベースを提供するORACLE社が実施する、ベンダー資格です。ORACLEMASTERには4つのランクがあり、やさしい順にBronze(ブロンズ)、Silver(シルバー)、Gold(ゴールド)、Platinum(プラチナ)となっています。

合格することでオラクルデータベースの管理スキルを証明できるため、データベースエンジニアとしてスキルアップを考えるのであればおすすめの資格です。

AWS 認定ソリューションアーキテクト 【ベンダー資格】

世界的にシェア率の高いAmazon Web Services(AWS)のベンダー資格です。

取得することでAWSのサービスを理解し、お客様のニーズに合わせて最適なソリューションを提案できることを証明できます。これからのIT業界ではクラウドの知識が必須であり、シェア率の高いAWSの資格のため、クラウドのスキルを身につけるのに役立つ資格です。

保守運用業務から目指せるIT職種

保守運用業務はほとんどのIT職種の基礎となります。そのため、適切な自己学習をおこなえば、基本的にどのジャンルにも進むことができるでしょう。ただ、どの業種においても年齢が若いほど採用されやすくなる傾向があるため、早いうちから目標を立てて行動することが大切です。

ここではインフラ系と開発系にわけて、保守運用業務からのキャリアアップを解説します。

インフラエンジニア

インフラ系エンジニアは保守運用から目指せるIT職種としてオススメできます。というのも、インフラ系ではどの職種においても最初は保守運用からキャリアをスタートさせるためです。興味のあるジャンルを見つけたら、関連する資格取得にチャレンジするなどし、採用される可能性を高めましょう。

運用保守から目指しやすいインフラエンジニア職
  • サーバーエンジニア
  • ネットワークエンジニア
  • データベースエンジニア

開発系SE

システム保守運用を担当しているのであれば、開発系SEを目指すのもよいでしょう。

開発系SEになるためには、プログラミング言語に関する知識とスキルは必要不可欠です。独学やスクールなどで技術を身につけましょう。

保守運用に関するよくある質問

最後に、保守運用に関するよくある質問をまとめました。

  • 保守運用業務の辛いところは?
  • 保守運用業務は楽しいって聞いたけど本当?

保守運用業務の辛いところは?

保守運用業務の辛い点として、以下のような意見が多くみられます。

保守運用業務で辛いこと
  • 夜勤やオンコールがある
  • お客様からの感謝を実感しにくい
  • 閉鎖的な空間での業務が多い
  • 年収が上がりにくい

保守運用業務は楽しいって聞いたけど本当?

保守運用業務を楽しいと思える人の意見として「トラブルを解決できたときの達成感が気持ちいい」「細かい作業が好き」などがあります。

保守運用業務は辛い面が取り上げられがちですが、仕事への向き合い方によってはやりがいのある仕事となるでしょう。

まとめ

保守運用だからといってスキルが身につかないわけではなく、仕事の取り組み方によってはエンジニアとしての基礎的能力を磨くことができます。しかし何のアクションも起こさずに目の前の仕事をこなすだけでは、エンジニアとしてのステップアップは望めないでしょう。

IT業界で長く使える人材になるためには、将来的にどの方面で活躍したいかを考え、それに向かってスキルアップを図ることが重要です。自分自身を客観的に見つめ直し、それぞれに適したキャリアパスを描いていってほしいと思います。