「都会の生活に疲れた」「子育ては地元でしたい」「自然豊かな場所で暮らしたい」など、地方での生活を希望する人は少なくありません。しかし、移住後の生活が不安でなかなか実行に移せない人も多いのではないでしょうか。

新型コロナ感染症の影響で「リモートワーク」や「テレワーク」が普及している今、田舎で暮らしながらリモートワークで都市圏の仕事に就くことは身近になっています。

この記事では、田舎暮らしをしながらリモートワークで仕事をするメリット・デメリットや地方移住するときの注意点などを紹介します。

働く側のメリット

田舎で暮らしながらリモートワークで働くメリットを紹介します。

交通網の混雑から解放される

都会でのオフィス通勤には通勤ラッシュがつきもの。リモートワークは自宅で仕事をするので、基本的に通勤する必要がなく、通勤ラッシュから解放されます。通勤のストレスが解消されるだけで、心身の負荷はずいぶん軽減されます。

都会と比べて道路の混雑が少なく、満員電車になることも比較的少ないため、通勤のみならず、日々の生活における移動ストレスから解放されるでしょう。

住居費や物価が安い

都市圏と比較すると、地方は家賃が安い傾向にあります。参考までに、東京都と山口県の家賃を比較してみましょう。1か月当たりの家賃の全国平均は55,695円なので、東京の家賃が高いことが分かります。

【東京都と地方の家賃比較】

都道府県1か月当たり家賃・間代(円)1畳当たり家賃・間代(円)
東京都810015128
山口県395592079

住居費だけではなく、物価も地方は都会より安い傾向にあります。

とくに生鮮食品は、海に面した県では魚介類、山間部では野菜など、田舎では安くて鮮度のよい生鮮食品が手に入ることもしばしば。都市部から山口県にUターンした弊社スタッフは「スーパーで売っている魚の鮮度が違う。素材が新鮮だからかお惣菜もおいしい。」と言っていました。

都市圏の会社に在籍したまま地方で働けば、給与水準は都会と同等なので、可処分所得が増えるため、大きなメリットといえます。

自然が豊かでのびのびしている

当たり前ですが、田舎は都会と比べて建物が少なく自然に囲まれています。朝起きたときに聞こえる自然の音、散歩中に目に入る花や緑…流れる空気がゆったりしていて日々の生活の中で心が洗われることもしばしばです。

また、地方には海や山などの自然が豊富にあるため、海水浴やキャンプを気軽に楽しむことができます。庭付きの家に住めば、庭でバーベキューや日曜大工もできるため、お金をかけずにリフレッシュできますよ。

子育てしやすい

都会では深刻な保育園や幼稚園の待機児童問題。認可保育施設を利用できずに、高額な認可外施設を利用せざるを得ない場合も多くあるため、給料の多くが保育代に消えてしまう、といった家庭も多くあります。

田舎では待機児童は少なく、保育園や幼稚園の利用がしやすく、働きながら子育てしやすい環境といえるでしょう。

また、田舎は比較的治安がよい町が多いため、防犯の観点からも安心して子育てが可能です。

交友関係が広くなる

都会では人付き合いを重視しない傾向があり、近隣住民との交流は失われつつあります。人付き合いの煩わしさから解放される反面、他人と交流する機会は少ないのではないでしょうか。

地方では、地域行事などで近隣住民と顔を合わせることも多くあります。昔ほど密なつながりは減ってきたものの、「ゆるいつながり」は残っており、適度な距離感を保ちつつ、地域のつながりの中で暮らすことができます。「どこの誰かわからない」という事態が起きにくく、地域のゆるやかな見守りがあるため、とくに子育ての面では大きな安心感につながるでしょう。

また、最近は都会から地方へ移住する人も多いため、同じような「移住仲間」のコミュニティが発足しているところもあります。

働く側のデメリット

地方移住をしてリモートワークで働くことはメリットばかりではありません。ここでは移住前に考慮する必要がある、デメリットについて解説します。

仕事仲間とコミュニケーションがとりづらい

リモートワークなので隣のデスクに同僚や上司はいません。オフィスで働いているときは、たわいのない会話でコミュニケーションを取れるところ、リモートワークは物理的に孤独な環境で働くことを余儀なくされます。

日々の些細な会話がリフレッシュになるタイプや寂しがり屋の人は、コミュニケーション不足が課題になるでしょう。近くにコワーキングスペースがあれば利用するのもおすすめです。

分からないことをその場で聞けない

リモートワークでは、分からないことをその場で質問することができません。経験の浅い職種だと分からないことも多く、困る場面が出てくる可能性があります。

リモートワークでは、コミュニケーションにチャットなどのツールを使う職場が多いため、質問を言葉にまとめる能力が求められます。また、要件をまとめて質問する気遣いや、分からないことを自分で調べて解決する努力も必要です。

車がないと不便な場合がある

地方では中心都市であっても駅まで徒歩30分、さらに電車は1時間に1〜2本しかこないような地域が多くあります。車が1人につき1台所有しているのが当たり前の地域だと、自家用車がないと生活が不便になってしまうかもしれません。

通販やネットスーパー、生協などを駆使すれば生活できますが、移住先の交通事情をリサーチし、必要だと判断すれば自家用車の取得を検討しましょう。

近所の人の目が気になる場合もある

一部のパターンではありますが、住民同士の距離が近いために、「あそこの家の人はいつも家にいる」「働いているのかしら」と余計な詮索をする人に出会う可能性がゼロではありません。気にしないのがいちばんなのですが、近所の人の目が気になってしまうタイプの人にとってはデメリットになります。

日頃から地域の人とコミュニケーションを取っていれば、あらぬ誤解は避けられることが多いため、最初は出会ったときのあいさつから始めるなど、日常のコミュニケーションを大切にするとよいでしょう。

会社側のメリット

リモートワークを活用して、地方の人材を雇用することで、会社側にも得られるメリットがあります。

多様な人材を雇用できる

最近はワークライフバランスを重視した働き方を好む人が増えています。リモートワークだと地方で暮らす優秀な人材を雇えるため、市場に埋もれていた優秀な人材を雇うことが可能です。また、介護や子育てなどでオフィスへの通勤が難しい人を柔軟に雇うことで、人材不足の解決にもつながるでしょう。

企業のイメージアップにつながる

リモートワークへの注目が高まる中、柔軟な働き方を取り入れる姿勢が企業のイメージアップにつながることは間違いありません。

リモートワーク導入は、国の施策である「働き方改革」とも合致します。リモートワークの導入に積極的な姿勢、またはリモートワーク導入に成功した事例は、大きなアピールポイントとなるでしょう。

コスト削減ができる

リモートワークを導入すると、交通費や事務所の光熱費、用紙の印刷代などの費用を抑えることができます。フルリモートの社員を雇う場合は交通費もかかりません。

フルリモート切り替えを推進する場合、出勤する人数に合わせてオフィスを小さな場所に移転すれば、大きなコストカットが可能です。

生産性向上につながる

黙々と作業をする職種の場合、リモートワークで生産性向上につながります。オフィスにいると突発的なミーティングや電話対応などで作業が中断させられることもしばしばです。リモートワークは1人で作業をすることがほとんどなので、作業に集中でき、生産性の向上が見込めます。

先述の通り、全国の優秀な人材を雇えるため、会社全体の生産性向上にもつながります。

リモートワークで通勤ストレスがなくなり、時間や心身のゆとりができることも、生産性向上に一役買うでしょう。

緊急時の事業継続性が見込める

新型コロナ感染症で注目を浴びたリモートワークですが、さまざまな不測の事態に対して、リモートワークは効果を発揮します。たとえば、地震などで交通インフラが機能しなくなった場合でもリモートワーク制度があれば、仕事が可能です。

事業継続のリスクヘッジとして、リモートワークは有効な手段です。

会社側のデメリット

次に、リモートワーク導入による会社側のデメリットをみていきます。

情報漏えいリスクがある

テレワークでもっとも大きな懸念点は、情報漏えいリスクです。総務省がテレワーク導入企業に対して実施した、導入の課題点についてのアンケート結果では、「セキュリティの確保」がもっとも高いポイントとなっています。

【テレワークの導入にあたり課題となった点(複数回答可)】

  • セキュリティの確保 52.0%
  • テレワークに必要な端末等の整備 50.3%
  • テレワークをする社員の労働時間の管理 40.9%

参考:総務省|令和5年版 情報通信白書

自宅のネットワーク環境は、会社のネットワーク環境と比べてセキュリティ面が脆弱な場合も多く、カフェなどの公衆Wi-Fiは通信が暗号化されていないため、情報漏えいのリスクはさらに高まります。

ネットワーク上のセキュリティだけではなく、たとえば機密情報が記載された資料を紛失してしまう、など、物理的な情報漏えいリスクも存在します。

勤怠管理がしにくい

リモートワークは人の目がないため、緊張化を保てず、モチベーション維持が難しいという課題があります。場合によっては、ついサボってしまうということもあるでしょう。また、リモートワークの就業時間は基本的に自己申告なので、長時間労働を誘発してしまう場合もあります。

勤怠管理を行う手段に、パソコンへのログイン状況や仕事内容を遠隔で管理できるツールを導入する方法もあります。しかし、社員は常に監視されているストレスを抱くかもしれないため、一長一短です。

設備を整える必要がある

パソコンや周辺機器を会社が貸与する場合、これらの設備を準備するための費用が必要となります。業務によっては、専用のシステムやアプリケーションの構築も必要となるため、システム構築費も発生します。

「中小企業経営強化税制」を活用すると、中小企業がテレワークを実施するにあたって投資した設備費に対して税制上の優遇が受けられます。

参考:中小企業庁|テレワーク等を促進するために中小企業経営強化税制が拡充されました

進捗状況が即時確認できない※評価基準があいまいになる

リモートワークでは、タスクの進捗管理をタイムレスにおこなうことができません。リモート下でも声をかけ合いやすい雰囲気づくりや、定例ミーティングの実施などで、進捗状況をこまめに確認できる体制を整えておく必要があります。

リモートワークに向いている職種

職種によってはリモートワークに向いている職種と向いていない職種があります。

ここでは、リモートワークに向いている代表的な職種を紹介します。

システムエンジニア・プログラマー

システムエンジニアやプログラマーなどのIT系職種は、コロナ前からリモートワークが進んでいた職種です。顧客へのヒアリング以外は基本的に1人でおこなう業務が多いため、リモートワークに適しています。

カスタマーサポート

カスタマーサポートは、お客様の問い合わせに対応し、不満や疑問を解決するのが仕事です。最近ではメールやチャットを積極的に採用する企業も増えており、そのような職場環境であればリモートでの業務も可能です。

過去に接客や営業など人と関わる仕事の経験があり、ITツールに慣れた人に向いているでしょう。

ライター

Webライターやコラムニストはパソコンがあれば仕事ができるため、リモートワークと相性のよい職種です。未経験者であればとくにフリーランスでの仕事がメインとなるため、自分で仕事を取りに行くガッツが必要です。媒体によって求められる文章が異なるため、正しい日本語の使い方に加えて、それぞれの媒体にトンマナを合わせられる文章力も求められます。

Webデザイナー

Webデザイナーは、いかにクライアントに認められる成果物を制作するかで評価されるため、リモートワークに向いています。

個人のセンスが重要な職種ですので、何がなんでもオフィス出社というよりは、自分が仕事しやすい環境下で、クリエイティブな発想を産みだすことが重要です。

保健指導相談員

一般的に、医療分野はリモートワークと相性が悪いといわれています。確かに、基本的には直接患者にケアを提供するため、リモートワークが難しい現場がほとんどです。

しかし最近では、オンラインで保健指導をおこなうサービスもあるため、一概に「医療職=リモートワーク不可」ではありません。保健師や管理栄養士の資格を持っていれば、医療職でもリモートワークのチャンスはあるため、資格を活かした柔軟な働き方が可能です。

地方移住のパターン

地元に帰ってくるUターンを代表として、JターンやIターンなど、地方移住にはさまざまなパターンがあります。ここでは地方移住のパターンを4つ紹介します。

Uターン

進学や就職などを機に、地方から都会に出て暮らしている人が、再び地元に移住することをUターンといいます。

たとえば、山口県で生まれ育ち、東京都内の大学を卒業後、そのまま都内に就職、ある程度経験を積んでから山口県に戻ってくる、というパターンが該当します。

Iターン

都市部で生まれ育った人が、地方に移住することをIターンといいます。

たとえば、以下のような移住パターンがIターンです。

  • 東京都内で生まれ育ったが、自然の中で暮らしたいと思い、地方の山間部に移住する
  • 東京都内で産まれ育ったが、就職先が地方都市で、そのまま住み続けている

Jターン

地方で生まれ育った人が進学や就職を機に都内に移住、その後、地元に近い地方都市に移住することJターンといいます。

たとえば、広島県の山間部で生まれ育った人が就職を機に東京へ移住、その後地元に近い広島市に移住する、といったパターンが該当します。都市の利便性も享受しつつ、生まれ故郷に行き来しやすい環境のため、利便性と地元志向の両方が叶えられる移住パターンです。

配偶者地縁型

結婚を機に、配偶者の地元に移住するパターンで「ヨメターン」「ムコターン」とも呼ばれます。本人にとってはIターンですが、UターンやJターンの派生型といえます。

田舎に移住するときの注意点

いざ田舎に移住したものの、思いもよらないハプニングの発生や、「思い描いていた素オーライフとは違った…」となることもしばしば。

ここでは、移住先についてリサーチすべき注意点を紹介します。移住して後悔した、とならないように、是非参考にしてください。

ライフラインを確認する

田舎では都市ガスや下水道が整備されていないところも多くあります。ガスはプロパンか都市ガスか、下水は通っているか、などインフラ設備の確認が必要です。

田舎では公共交通機関が整っておらず、車が必須なところも多くあります。とくに子育て世代だと、高校に通学するために駅までの送迎が必須、ということもあるため、移住先の交通事情は必ず調べましょう。

移住先の気候や災害を確認する

海や河川が近い場所だと、地震や台風のときに水害に遭うリスクが高くなります。山を切り拓いて造成した土地は土砂崩れのリスクもあります。どこで暮らしても災害のリスクはゼロではありませんが、少しでもリスクを減らすために、ハザードマップで災害リスクを確認して、なるべくリスクの少ない地域を選ぶようにしましょう。

また、地方によっては晴れの日が少ないなどの特徴があるため、冬季うつ傾向のある人などは、移住先を決めるときに、気候も考慮しましょう。

移住後の生活コストを把握する

田舎は物価は安いものの、インフラや公共交通機関が十分に発達していない場所では、車の維持費などのコストがかかる場合があります。移住後の生活にかかる項目を具体的にピックアップし、可能な範囲で生活費シミュレーションを実施しておく必要があります。

移住に使える補助金や助成金制度を調べる

2024年現在、政府の地方移住施策により、一都三県(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県※一部地域除く)から地方へ移住した場合、移住支援金がもらえます。詳しくは移住先のホームページなどで確認しましょう。

参考:内閣官房・内閣府総合サイト地方創生|移住支援金

その他にも地域が独自で取り組む「空き家バンク」などもあるため、移住に使える施策がないか調べておくことで、金銭的な負担を軽減できます。

参考:住んでみぃね!ぶちええ山口 山口県の移住支援サイト|空き家バンク

まとめ

田舎には田舎の、都会には都会のメリット・デメリットがあるため、それらを加味した移住プランを検討する必要があります。

その上で田舎暮らしを希望するものの、条件に合う仕事がないために田舎暮らしを諦めている人達は多くいるのではないでしょうか。ICTの活用によりリモートワークが普及しつつある今、「働きたい場所でやりたい仕事をする」選択肢が取りやすくなっています。

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